深夜のセルフガソリンスタンド


深夜のセルフガソリンスタンド

上手壁側にカウンター。そこでボーとしている、深夜勤務のアルバイト徳井真一
下手から車のヘッドライトのような照明(車がスタンド内に入ってきた風)
徳井、下手を見て

徳井「ふぁあ(あくび)ん?何、手間取ってんの?セルフなんだから頑張れ!そうそう!軽油とか入れるなよ…」

車のヘッドライトのようなライトが舞台を横切る(下手から上手へ)

徳井「はい。よくできました」

新聞をカウンターに広げて読み始める、徳井

暗転

下手照明がつくと、一心不乱に写真を
撮っている地味な女(大島めぐみ)がいる
大島、自分の撮った写真を確認して

大島「いいぃー!」

また写真を撮り続ける大島
上手のカウンター照明
新聞を読んでいた徳井が大島に気づく

徳井「ん?なんだ?あの女…バイクで来たのか?」

カウンターから出て様子を伺う

徳井「あれ?バイクも車もないけど…徒歩?怖っ。うわ、どうしよう…危ない人かな」
大島「いいな、いいよー。このギャップたまんない」
徳井「なんか叫んでるぞ」

車のライトが大島を照らす(下手から)
目を見開いた大島が怖い顔で

大島「あぁあ、眩しいぃぃ」

引き返したように、下手に戻る車のライト(照明&音)

徳井「おいおい、まずいじゃないか。客帰ったぞ」

大島目を押さえて

大島「あぁ~残像ぉ、光の残像がぁ~私の目に焼き付いているぅ」
徳井「怖っ!」

また一心不乱に写真を撮っている大島
徳井「何が楽しくて、深夜のガソリンスタンド撮ってんだよ~。あぁ、話しかけなきゃいけないかなー、やだな~」

自動ドアの開く音、徳井出て行く。
自動ドア閉まる音
カウンターの照明が消える
恐る恐る下手の大島に近づいていく徳井
気づかず写真を撮り続ける大島

徳井「あの」
大島「わ!」

ものすごく驚く大島

徳井「いやいや、驚いてるのは俺の方ですよ」
大島「なんで!なんで!セルフのガソリンスタンドに人が!?」
徳井「いやいや、いますいます!セルフガソリンスタンドに人はいます」
大島「こんな!こんな丑三つ時に?」
徳井「丑三つ時って…深夜にもいるんですよ、一応」
大島「知らなかった…」
徳井「あぁ…利用したことないんですね」
大島「えぇ…実は」
徳井「そんな普段利用しないガソリンスタンドで何をしているんですか?」
大島「普段はよくバスを利用しています」
徳井「そんなことは聞いていません」
大島「え?じゃあ、なんですか?」
徳井「カメラで何撮ってるんですか?」
大島「気になる?」
徳井「あぁ…あのーえっとー気になりません。全然気になりません。とりあえず、帰って下さい。うん、そうしたらいい」
大島「帰りたくない」
徳井「ハッキリ言いますが、迷惑です。さっきも客帰ったじゃないですか」
大島「客?あぁ、あの刺さるような光を私に向けた、不届きもの!」
徳井「あぁ、危ない、なんか危ない人ですね」
大島「そんなことないわよ。ちょっと常識はずれなだけよ」
徳井「ちょっとじゃないし、だけでもないです。営業妨害ですよ」
大島「…ごめんなさい」
徳井「…帰って下さいね」

カウンターの場所(上手)へ戻ろうとする徳井

大島「あの…私!」

嫌そうに振り返る徳井

大島「好きなんです…普段見ている物の違う側面を写すのが…あ、あの、例えばいつも昼見ているガソリンスタンドを夜写すと…光の感じが違って不思議な感じがして、好きなんです(沈黙)…えっと…」
徳井「…分かりました」
大島「他には…」
徳井「もう、もういいです。説明は。…じゃあ、もう少しだけいいですよ。20分くらいなら…でもさっきみたいにお客さん来たらやめて下さい」
大島「あ、ありがとうございます」

徳井上手へ。自動ドアの開く音。カウンターが照らし出される。自動ドア閉まる音。カウンターへ戻る徳井

徳井「あぁ、怖かった」

また写真を撮り続ける大島
そんな大島を見る徳井

徳井「わかんねぇ。好きなのは分かるけど、好きだからってできる範囲なのか?あの行為は」

下手から近くのスナックで働く胡桃と酔っ払いの客・西田が歩いてくる

胡桃「ちょっと!ついて来ないでよ!ストーカー!」
西田「あ?誰にストーカーだ!?くそ生意気な女だな!俺は貢いでやっただろ?お前みたいなもんに!」

その様子を見ている徳井と大島

胡桃「うるさいな!ネチネチ!」
西田「へらへら媚びてたくせに!」
胡桃「仕事!仕事だから、そういう仕事なの!分かるでしょ!」
西田「いいや、お前は俺が優しいのを知ってて、付け入ったんだ!なんて!性悪女なんだ!」
胡桃「はぁ?バカじゃないの!」
西田「誰にバカだ!?このくそ女!」

胡桃に掴みかかろうとする西田

胡桃「触るな!バカ男!」

その西田を突き飛ばすくるみ
フラッシュみたいな照明の中、スローで。
突き飛ばさる西田
車の効果音・急ブレーキの音、車が西田
をひく音

暗転

西田はいなくなっている
舞台照明が点くと、胡桃は突き飛ばしたままの体制。徳井と大島、驚いている下手からチンピラ風な石井がやってくる
舞台の下らへんを見る石井

石井「あぁ…やばい、人ひいちまった。ん?
姉ちゃんの連れか?」
胡桃「知らない!こんな奴」
石井「一緒に歩いてただろ」
胡桃「本当しつこいのこいつ!」
石井「…まぁ、お前らの関係はどうでもいいけどさ」
胡桃「あ、車、スタンドの中に入れたら?」
石井「あ?あぁ」

下手にはける石井
胡桃振り返って大島に声をかける

胡桃「そこのお姉ちゃん、ちょっと、何か飲み物おごるよ。中行こ」

徳井のいる事務所?を指さす胡桃

大島「え?えっと…」
胡桃「ほら、早く!」
大島「は、はい」
上手へ移動する2人
自動ドアの音
徳井のいるカウンターの前を通る2人
自動ドアの音

暗転

照明が点くと、カウンターの場所、中央より若干下手側。中央に椅子と机
上手の天井側、監視カメラ
椅子に腰かけている大島
自動ドアの音の後、下手から石井が来る

石井「あぁ!ちくしょう!」

びくびくする大島。椅子に座る石井
上手から飲み物を持って出てくる胡桃

胡桃「あんたは何飲むの?」
石井「ビール!」
胡桃「ない!ほら、これでも飲んでな」
石井「ちっ」

石井と大島に飲み物を渡す胡桃

胡桃「はい、お姉ちゃん」
大島「あ…ありがとうございます」
胡桃「スタンドのお兄ちゃんは?」
徳井「…結構です」
胡桃「そ?」

胡桃椅子に座る。沈黙

石井「どうすっかなぁ」
胡桃「ねー」
大島「あ、あの…」
胡桃「何?」
大島「あなた、あの男の人突き飛ばしましたよね?」
石井「あ?お前があいつ車道に突き飛ばしたのか!?」
胡桃「まぁね!」
石井「まぁね!じゃねぇよ!なんだ!じゃあ、俺悪くないじゃん!あぁ、よかった!お前が悪いんだよ!やったー」
胡桃「だってさー、あいつすごい嫌な奴なんだよ。店の常連なんだけどさ、勝手に指名してさ、お前にいっぱい貢いでるとか言って、つきまとわれてさ、ストーキング!すんごい!しつこいストーカーなの!」
大島「うわ、嫌ですね」
胡桃「でしょ?本当、清々した!」
石井「清々したじゃねーよ!巻き込まれた俺はどうなんだよ!マジ迷惑!俺もう帰るぞ!悪くないし」

席を立とうとする石井

大島「でも、ひいたから…帰るのはまずくないですか?」
石井「なんでだよ!」
大島「だ、だって警察が来る前にいなかったら、ひき逃げと間違われますよ」
胡桃「あ、そうね」
石井「面倒くせー」
徳井「あ」
石井「あ?」

徳井の方を睨む石井
徳井の目線の先(監視カメラ)を見て

大島・くるみ・石井「あ」

沈黙

目線、監視カメラのまま

胡桃「お兄ちゃん、あれは動いてる?」
徳井「はい、動いてます。しかも、外部からもチェックできるようになっているやつです…確か」
石井、徳井の方を見て

石井「つまり?」
胡桃「人をひいた後、通報もせず、ガソリンスタンド内の休憩場で飲み物を飲む人間がいる映像」

手に持っている飲み物を凝視する大島

石井「え?」
胡桃「はい、共犯!」
石井「お前!ふざけんなよ!」
胡桃「そういう風にしか見えないと思うわよ!ねぇ?」
徳井「…はい。今からでも通報しますか?」
胡桃「いい、救急車とか呼ばなくていい」
徳井「そういうわけには…」
胡桃「ねぇ、みんなで逃げない?」
大島「え?」
胡桃「みんなでどこかへ逃げない?片道だったら、飛行機のチケット代出してあげるわよ」
石井「県外かぁ…うん、いいね。ちょっと楽しくなってきた」
胡桃「どこか行きたい所ある?」
石井「ん~」
徳井「東京」
胡桃・石井・大島「え?」
徳井「東京とかどうですか?」
胡桃「以外な人から提案きたわね」
石井「本当以外だな、兄ちゃん東京行きたいのか?」
徳井「はい、ちょっと人に会いに行きたいなって…」
胡桃「こんな時に浮かぶなんて、大事な人よね」
徳井「そういうわけでは…」
石井「大事な奴だよな…よし、いいぞ、東京で」
大島「私も東京でいいです」
胡桃「私もどこでもよかったからいいわよ!よし!そうしよう!さて、場所も決まったし、さっそく行こう!」
石井「おし!兄ちゃん車もってるか?」
徳井「はい」
石井「よし、空港に向かうぞ!」
胡桃「よーし!行こう!はい!お兄ちゃん、早く車とってきて!」
徳井「は、はい」

カウンターから出て、下手へ向かう徳井
自動ドアの音
下手にはける徳井。暗転



車のエンジン音
照明が点くと中央に車のシート
運転席には徳井
胡桃助手席、大島・石井後部座席に乗る

石井「よし!兄ちゃん行こう!」
胡桃「そうだよ!早く行こう!」
徳井「分かりました。じゃあ、出します!」

車の動く音

胡桃「あたし、胡桃って言うの」
石井「俺は石井」
大島「わ、私は大島です。大島めぐみ」
胡桃「お兄ちゃんは?」
徳井「俺は徳井です」
胡桃「OK!みんなの名前は分かった。じゃあ、家が近くの人で荷物取りに行きたい人いる?」
大島「あ、あの、私の家、ここから近いので、いいですか?」
胡桃「いいよね?」
石井「おう!かまわねーよ!俺もよ、家じゃないけど、行きたい所あるしさ」
胡桃「じゃあ、まず大島ちゃんの家行こう!」
徳井「そんな時間ありますか?」
胡桃「どうせ、早く行っても飛行機飛んでないわよ!大丈夫、行こう、行こう!」

大島の家の前

暗転。照明つくと、3人とも上手を見ている。大島はいない

胡桃「大島ちゃんち木が生い茂って…暗い感じね」
徳井「1人で住んでるのかな」
胡桃「ん~、あ、見て!庭に酒瓶いっぱい転がってるよ」
石井「あぁ、男か親父か…ろくでもない奴と住んでるんじゃねぇのか」
胡桃「まぁ、この場所を離れる理由が大島ちゃんにはあるのよね…きっと」

大島が上手から小さな紙袋を持って帰ってくる。後部座席に乗り込む

大島「すいません。遅くなりました」
胡桃「忘れ物ない?」
大島「はい!大丈夫です!」
石井「よし!じゃあ、徳井ゴーだ!ゴー」
徳井「はい」

エンジン音。しばらく車が走っている様子。救急車のサイレン(照明&音)車とすれ違った感じで

徳井「誰か通報したんですかね?」
(無視される)
石井「次、俺いいか?」
胡桃「どこ行くの?」
石井「ばあちゃんの墓。俺、今日で暴走族辞めるつもりだったんだよな…」
胡桃「今日?」
徳井「運悪いですね」
石井「なぁ~こんなことに巻き込まれてよぉ」
胡桃「わ、悪かったわよ」
石井「別にいいさ、これ以上に運の悪さを感じることあったから、こんなのは別にいいんだ。あ、あそこの角を右行って」
大島「妹さんの所は行かないんですか?」
石井「いやいや、こんな夜中に行けないだろ、妹妊娠中だし。あ、そこで止まって」

墓地
下手側を見て

大島「うわぁ」
石井「おし、ちょっと待ってろ、すぐ行ってくるから」

降りて、下手にはける石井

徳井「真っ暗ですね」
胡桃「なんか、夜の墓場は1人で歩くの嫌よね」
大島「はい、嫌です」
沈黙。カメラを大事そうに見つめる大島
徳井バックミラーを見るように

徳井「その、カメラ新しいよね」
大島「あ…はい。買ったばかりです。…コツコツお金貯めてやっと買えて」
徳井「それで、張り切って深夜のガソリンスタンドに出没したんだ」
大島「は、はい…すいません。やっと買ったこのカメラを、父親に壊されそうになって、家出てきて…明るいのに人のいないガソリンスタンドの静けさに体が勝手に吸い寄せられて、気が付いたらシャッターを」
徳井「いい写真撮れた?」
大島「はい!お蔭様で!」
胡桃「お父さんと二人暮らし?」
大島「……はい」

沈黙

徳井「石井さん遅いですね」

暗転。下手側、手を合わせている石井にスポットライト

石井「ばあちゃん、幸子がそろそろ子供産まれるみたいだから見守ってやってな…。あと、もう少ししたら、ちゃんとそっち行くから、もう少し時間くれよな」

スポット消えて、石井が車に戻ってくる

胡桃「おばあちゃんとちゃんと話せた?」
石井「おう。さ、次行こう」


走り出す車(音&照明)

胡桃「…じゃあ、次は…徳井くんかな?」
徳井「俺は大丈夫です」
胡桃「いいの?」
徳井「はい。胡桃さんは寄る所ないんですか?」
胡桃「…実は一か所…あ、でも、いいや」
石井「なんだよ、行けばいいじゃん!」
胡桃「行っても会えないし」
大島「誰なんですか?」
胡桃「養子にだした娘」
徳井「娘いるんですか?」
胡桃「うん」

救急車とすれ違う(音・照明)
徳井、自分の手を見て

徳井「胡桃さんは娘の手を離したんだ…」
石井「なんだ、急に!徳井だって誰かの手を離したことあるだろ?」
徳井「俺は離したことはない。離されたことしか…」
石井「(石井自分の手を見て)俺はばぁちゃ
んの手を離したのかもしれないな」
大島「(大島自分の手を見て)私は離してほしかった。父の手をふりほどきたかった」

また救急車とすれ違う(音・照明)

徳井「今日、救急車とよく、すれ違いますね」

沈黙

徳井「…そのまま空港向かいますよ」
胡桃「うん、お願い」
大島「徳井さん」
徳井「ん?」
大島「これ」

後ろから小さな紙袋を徳井に差し出す

徳井「何?」
大島「少しなんですが、貯めていたお金です」
徳井「これから使うはずだから、持ってなよ」
大島「徳井さんに持っていてほしいんです」
徳井「俺に渡したら、使っちゃうよ?」
大島「使ってもらってかまいません。むしろ、徳井さんに使ってほしいです」
徳井「え?」
胡桃「これも一緒に使って」

足元から袋を出して、徳井に開いて見せ 
る。後部座席から大島と石井が乗り出す

大島・石井「おおぉおー」
胡桃「使う必要なくなったの。だから使って」
徳井「娘さんにあげたらどうですか?」
胡桃「そしたら、いろいろ面倒じゃない」
石井「なんで?なにが?」
大島「今の家庭に波風たてることになるかもしれないから…」
石井「そうか…」
徳井「いつか使うかもしれませんよ?2人とも持っておいた方が…」
胡桃「いいの、いいの」
石井「俺も」

後部座席の石井、財布を差し出す

徳井「石井さんまで」
石井「持っとけ!」
徳井「なんですか!3人とも!」
大島「あ、空港だ!」
胡桃「本当だ!ついたね」

ブレーキの音。徳井、時計を見て

徳井「でも、ちょっと早いですよね」
石井「少し寝るべ」
胡桃「そうね、誰か起こしてね。おやすみ」
大島「おやすみなさい」

石井・くるみ・大島寝ている

徳井「起こす誰かって、俺じゃん」

携帯か時計のアラームを設定する
3人の寝顔を見て

徳井「変な奴ら…」

徳井も眠りにつく。徐々に暗転
アラームの音が鳴り響く
照明がつくと、車には徳井だけ

徳井「あれ?誰もいない…え?逃げた?それとも先に行ったとか?」

助手席にはみんなのお金

徳井「どうしろっいうんだ…」

時計(又は携帯)を見て

徳井「あ、やばい」

しばらく迷って

みんなのお金を持って車を降りて、下手へはける。暗転

◎空港
照明がつくと、ロッカーの鍵とチケットを持った徳井

徳井「三人とも本当に行かないのかな…」

待合室にあるテレビを見る徳井

テレビに徳井が働いているガソリンスタンドが映し出されているという設定

徳井「うわ?ガソリンスタンドだ!あぁ、ついに…ニュースになったのかぁ…あれ?ガソリンスタンドじゃなくて、隣のスナックが映ってるぞ」

ニュース(音声)
「昨夜、深夜3時頃こちらの店舗で従業員の浅井胡桃さん25歳が、客の田中健介容疑者43歳に刺され死亡しました。田中容疑者は浅井さんに対し執拗に付けまわすなどのストーカー行為をしており、それが原因で店をやめることになった浅井さんに対し、逆上し事件を越したものとみられています。その他にも同時刻にこの事件現場周辺では、他に2件の事件がありました。先ほどの事件現場から200m行った場所では、暴走族同士のもめごとがあり1人が死亡。また、その場所から100m離れた民家では岸本圭子さん20歳が死亡しているのが、発見されました。岸本さんの体には多数のアザがあり、同居している父親が犯行を認めていることから、父親の辰夫容疑者の日常的なDVが原因とみられ、容疑者から事情を聴いています。この3件の事件に関連性はないとのことです」

中央で立ち尽くす徳井。空港のアナウンス。暗転

◎ガソリンスタンド

照明がつく、ガソリンスタンド
下手側カウンター。徳井とは違う男・岸本がカウンターに立っている
上手からユニホームを着た徳井が出てくる

岸本「徳井君、もう勝手に逃亡しないでくれよ。朝来たらいないんだもんな」
徳井「すいません。ちょっと気分が悪くなって」
岸本「ま、今日はちゃんと出勤してきてくれてるし許すけど、そういう時は電話くれよ」
徳井「はい、すいません」
岸本「でもさ、あの日やばかったよね。事件が周辺で多発してさぁ、ニュースで見た時はうちも巻き込まれてないかって心配になったよ。で、朝来たら徳井君いないしさ…監視カメラ見たら徳井君の様子もおかしかったし」
徳井「あの日、死んだ3人がここへ来ていたんです」
岸本「え?」
徳井「最初にここへ来たのは、大島ちゃん」
岸本「あぁ、父親のDVで死んだ子?」
徳井「はい、酒乱の父親から守りとおしたカメラを持ってきていました。あ、ちなみにカメラ預かっています」
岸本「え!?そうなの?写真見た?」
徳井「はい、素敵な写真たちでした。彼女からお金を預かっていて、そのお金で彼女の写真集を作ろうと思っています」
岸本「ふ~ん。あとの2人も来てたの?」
徳井「はい。石井さんという男性は、一緒にお墓まいりに行きました」
岸本「え?幽霊と?お墓に?」
徳井「はい、その日彼は暴走族をやめるつもりだったんです、数日前にその報告をおばあさんのお墓にしていたんですが…」
岸本「やめようとしていた日に、暴走族同士の喧嘩に巻き込まれて、死んでしまったのか…」
徳井「はい…。もう1人は隣のスナックの胡桃さん。彼女を見た時、彼女を殺したストーカー男も一緒でした。きっと彼女に対する執着が現れていたんだと思います。彼女は母親の病気の治療費のために仕事を頑張っていました。そんな母親も死に、ストーカーにも悩まされ、スナックをやめようとしていたところ、命を奪われました」

2人の男女が下手から入ってくる
自動ドアの音

岸本「いらっしゃいませ」

徳井、カウンターの中にある荷物を出して、その中から大島のカメラを出す
ビックリする岸本と一緒に画像を見ている
椅子に座る女・さやか。
上手へはける男・関根

関根、飲み物を持って上手から出てくる
さやかに渡して、椅子に座る

さやか「胡桃さんのことどうしましょう」
関根「身内がいないからね…僕らが何かしら、やるしかないんじゃないのかな」
さやか「そうね、瑞穂の産みの母親ですものね」
関根「瑞穂に伝えるべきかな」
さやか「迷うわね」
関根「胡桃さんのお母さんも亡くなったばかりだったんだろ?」
さやか「そうらしいわ」
関根「お墓とかもまだだろうな」
徳井「あの…」
岸本「おい」(徳井に対して)
徳井「俺…僕、胡桃さんの知り合いで徳井と言います」
関根「私どもは、胡桃さんの娘・瑞穂の養父母で関根と申します。実は今、事件現場に献花してきた帰りなんです」
さやか「あ、あの胡桃さんは瑞穂のこと何か言っていましたか?」
徳井「いいえ、何も…。でもそれも迷惑をかけたくないという愛情だったと思います」
さやか「そうですね…」
徳井「実は胡桃さんからお金を預かっています。それでお墓を作ってあげたいのですが」
関根「ありがたいです。娘の産みの母親をちゃんと埋葬してあげたいので、助かります…」

徳井、石井の財布を落とす

岸本「徳井君、財布落としたぞ」
徳井「あ、これ石井さんっていう男性から預かったものです」
岸本「分厚いな。結構入ってるんじゃないか」

石井の財布を開けると、手紙が入っている。

岸本「お札じゃなくて、手紙か」
徳井「石井さんから妹さんへの手紙ですね」
岸本「お守りが入ってる」
さやか「安産のお守りですね」
徳井「もうすぐ産まれるって言ってたから、早く送ってあげないと…」
さやか「亡くなった命と産まれる命」
関根「どの命とも後悔のないように接しないとね」

関根、さやかの肩を抱きしめる

さやか「瑞穂に会いたい」
関根「帰ろうか」
さやか「うん」
関根「これ私の連絡先です」

徳井に名刺を渡す関根

徳井「連絡します」

関根夫婦下手にはける
自動ドアの音

徳井「…実は東京行ってたんです」
岸本「疾走している間に?」
徳井「はい、すいません。…そこで俺を捨てた2人に会ったんです。1人は母親。母には新しい家族がいました。もう1人は恋人。恋人にも家族が…でもその情景を見て、2人と話して、なんか納得できたんです。母は俺に謝りました。彼は何もなかったかのように接してきました」
岸本「え?彼?」
徳井「あ、俺同性愛者です」
岸本「知らなかった…」
徳井「2人に会った後、初めて泣けたんです。やっと泣くことができて、今スッキリしています」
岸本「そっか…。そんなスッキリしてる時に便乗して言うけどさ、俺、徳井くんのこと好きなんだよね」
徳井「え?」
岸本「気づくでしょ」
徳井「気づかないですよ!」
岸本「無断で仕事場からいなくなる奴、許すわけないじゃん」
徳井「岸本さんがいい人なんだと思いました」
岸本「まったく」
岸本「じゃあ、俺は帰るよ」
徳井「はい、お疲れ様です」
岸本「お疲れ」

またいつものように、退屈そうにカウンターに立つ徳井
新聞を読んで、ふふふと笑う
徐々に暗転
照明がつくと、喪服を着た、関根とさやかが上手から出てくる(先に娘の瑞穂が行った感じで)

さやか「瑞穂、そんなに走ったら転ぶわよ」

下手側で関根とさやかが肩を抱いて微笑んでいる。スポットそこ以外暗転
  
上手側スポット、嬉しそうに赤ん坊を抱く石井妹。手紙とお守りを見て

石井の妹「遅いわよ。産まれてからくれるなんて…あなたのおじさんは」

石井の妹、子供の顔を覗き込む
中央スポット、囚人服を着た大島の父親、娘の写真集を見ている、泣く

舞台の背景に大島の写真

照明消えて写真とシルエット


餃子
餃子(2014-01-27 13:00)

誰か聞いてよ!?
誰か聞いてよ!?(2014-01-13 13:00)

暗号と少年
暗号と少年(2013-12-24 13:00)

ミルククラウン
ミルククラウン(2013-12-02 13:00)

つる
つる(2013-11-11 13:00)

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