人格形成の基礎を培う幼児期の教育において 「人権感覚の意識 (芽生え)」 を育てることはとても重要です。 幼児は、 遊びを中心とした園生活の中でさまざまな人と関わり、 自己を発揮したり相手の思いに気づいたりします。 こうした体験を通して、 自分も相手も大切にしようとする気持ちが育まれていきます。
本稿では、 教師の仲立ちにより、 子ども同士が関わり 「やさしさ・思いやりの心」 を発揮したり、 思いを伝え合い 「生活や遊び」 を自分たちで創ろうとしたりする姿を紹介します。
●年少 (3歳児) ―小さい子へのプレゼントを喜んで作る
本園は子育て支援として、 未就園児親子を対象に 「あそびにおいでよ」 を実施しています。 1月は 「お店屋さんで買い物」 を親子で楽しんでもらうために、 お店屋さんで売る物を園児が作ることになりました。 (T:教師 C:子ども)
T: 「何がいいかなー」 C: 「ミックスジュースは?」 「クッキーもいいじゃん」 「モールのネジネジで指輪!」 「コップ作ってお菓子入れてあげれば?」 ・・・・作ってあげたいという思いから、 今まで自分たちで作った物が次々と提案されます。
T: 「小さい赤ちゃんで、 まだ歯が生えていない子もいるかもしれないよ」
C: 「じゃ、 クッキーは食べれないじゃん」 「ジュースのつぶつぶはどうかな?」
T: 「いちご組 (満3歳児) のYくんは音の鳴る物が好きなんだって~」
C: 「あっ!マラカスは?」 「それなら音鳴るじゃん!」 「いいねえ~」 とみんな大賛成!
はさみを使ったりしながら、 一人一つ作りました。 「小さい子、 たくさん来るかもしれない」 と、 一人で二つ作る子もいました。 今まで幼稚園で一番小さいさくら組でしたが、 いちご組のお友だちが入園したことから、 小さい子に対して○○してあげたいという優しい姿が見られ、 「早く小さい子来てほしい~」 と、 おもちゃ作りに張り切る子どもたちでした。
今まで、 年上のたけ組 (年長) さん、 すみれ組 (年中) さんに優しくしてもらったことが、 小さい子に○○してあげたいいう思いに繋つながっています。
●年中 (4歳児) ―教え合うことのよさを共有する
年長さんから 「うさぎ飼育当番」 を引き継いだすみれ組のみんなは、 年長さんのアドバイスを受けながら、 5人グループでうさぎの世話を始めました。 でも、 教えてもらったとおりにお世話ができない子がいます。 そんな時は、 よくわかっている子が 「えさはコップ2はいだよ、 お水はたくさん入れてはだめだよ」 と優しく教えます。 そして、 今日もみんなで仲良く張り切ってうさぎのお世話を続けます。
2月3日は 「豆まき」 です。 鬼をやっつけるために、 新聞紙で作った豆を入れる箱を、 画用紙を使って作ります。 先生から、 折り紙で箱の作り方を教えてもらっている子どもたちですが、 折紙よりも固い画用紙の箱作りは、 しっかり折らないと弱い箱になってしまいます。 中には上手に折れない子もいます。 そんな時は、 子ども同士で教え合ったり助け合ったりして、 丁寧に折り目を付けて立派な箱が完成しました。
●年長 (5歳児) ―思いを伝え合い、 自分たちの生活・遊びを創っていく
年長さんになると、 いろいろな事をみんなで話し合って決めていくことができます。 夕涼み会では 「世界に一つだけの屋台を作ろう」 と、 みんなが意見を発表します。 「屋根をつけよう、 お花や提灯をつけよう、 自分も乗せたい、 虹みたいにしよう」 ・・・みんなの思いのこもった屋台が完成しました。
また、 年長さんは 「ドッジボール、 サッカー」 など、 ルールのある遊びが大好きです。 進級したころは仲良しの友だちが集まって遊んでいましたが、 この頃は 「ドッジボールする人~」 と声を掛け合い、 男女関係なく誘い合ってゲームが始まります。 でも、 時々ルールを守らない子がいてトラブルが起こります。 以前は、 強い子が自分の主張を通して、 周りの子は黙ってそのままということもありました。
最近は 「○○ちゃん、 それ違うよー、 そうすると面白くないよ」 と、 友達同士で言い合う姿を見かけます。 ふざけてやるのが楽しいのではない、 みんなでルールを守って遊ぶのが楽しいんだよ、 という気持ちを共有できるクラスになりました。
このように、 子どもの人権感覚の芽生えを促す子ども同士のかかわり、 遊びや生活を保障していくためには、 教師自身の人権感覚の在りように依るところが大きいことは言うまでもありません。 私たち幼児教育にかかわる大人が、 人間尊重の教育、 子どもが健やかに成長していく権利を今一度確認し、 「子どもを主体とした幼児教育の推進に一層努めなくてはならない」 と考えます。
(学校法人島田学園五和幼稚園園長)