「じゃんけんぽん」
「あー、 負けちゃったー」
「そらくん、 強いねえ」
島田市立伊太小学校の児童六十二人。 前に並んでいるのは…車いすの子どもたち、 翔空 (そら) くん、 善明くん、 樹里さん、 茜さん。 保育士の翔空くんママは盛り上げるのがお手の物。 じゃんけんキングで障がい児と健常児の距離がどんどん近くなっていく。
善明君の番になった。 筋ジストロフィーの善明君は 「じ、 ぶ、 ん、 で、 や、 る」 と言って一生懸命右手に力を入れてグーを作った。 時間がかかるから後出しじゃんけんだ。 樹里さんは移動可能なベッドに寝たままでにこにこしながら指先をサイコロに押し当てる。 パーの目が出た。 子どもたちの歓声にまたにっこり。 手が使えない茜さんは目視で札を選んでいく。 迷った挙句、 チョキをじっと見つめた。 「これに決めたよ」 と目がそう言っている。
島田市重度障がい児 (者) リアンの会には二十六人の子どもがいる。 なぜ (者) なのかというと、 一昔前は重度の子どもは二十歳まで生きられないのが普通だったからだ。 でも今は医療が進んで長く生きられるようになってきた。 うれしい反面、 現実の悩みは長く重くなったとも言える。
出前授業は平成二十四年の秋から始めた。 子どもたちを連れて市内の小中高校にでかける。 きっかけは 「障がい者に対する偏見をなくしたい」 と思ったからだ。
ダウン症の子を育てる若いお母さんがこんな話をしてくれた。
「お兄ちゃんが一年生になって新しいともだちができたんです。 何回かうちに遊びに来たんですが、 ぷっつり来なくなってしまったのでお兄ちゃんがその子に理由を聞いたら、 『ママが、 あのうちにはダウン症の子がいる。 馬鹿がうつるから行っちゃダメって言うから』…すごいショックで…どうやってこれから付き合っていけばいいんでしょう」。
私は障がい児を持つ親として憤りを覚えた。 そしてあるワークセンターの所長さんが教えてくれた言葉を思い出した。
「人間はね、 みんな障がいをもっているんだよ。 健常者は心に障がいをもっている。 悪口を言ってみたり、 人をいじめてみたり。 でもね、 ここで働いている子たちを見てください。 一生懸命仕事して、 悪口なんか言わないよ。 体に障がいがあっても、 心はほんとうにきれい。 心の健常者なんだよ」。
この時、 私は初めて障がい者を尊敬した。 心の健常者、 それは私より人間的に、 絶対上だ。 この感覚、 子どもたちに伝えていかなくちゃならない。 障がい者の忍耐強さ、 心のきれいさを。 言葉では伝わらないオーラを、 触れ合うことで感じてほしい。
こうして始めた出前授業だが初めは健常児との間に厚い厚い壁を感じた。 交流していくうちにその壁はどんどん薄くなり、 帰りはお見送りしながら 「また来てね!」 と言ってくれる。 その瞬間が一番うれしい。
県立金谷高校には五歳の日花琉ちゃんがお母さんとともに訪問した。 十回の手術を経験した日花琉ちゃん。 外出用の人工呼吸器をどこにでも持って行く。
荷物が多いため、 サッカー部のお兄さんたちが玄関に出迎えてくれ、 四階まで車いすごと連れて行ってくれた。 ちょっとしたお姫様気分かな?日花琉ちゃんは気管切開しているため話ができない。 ベビーサインとにこにこ笑顔で一生懸命自分の気持ちを伝えていた。 ハイタッチをしたお兄さんお姉さんは、 もう日花琉ちゃんのサポーターだ。
出前授業のもう一つの目的、 それは 「障がい児を支えるサポーターを育てる」 ということだ。 障がい児たちは同年代の子どもたちに支えられてこれからもこの地で生きていく。 どれだけ心の通じるサポーターを増やすか、 ここが大事になってくる。 この二年間で千人を超える子どもたちと交流してきたが、 これからも着実にこの流れを作っていきたい。
昨年、 金谷高校の三年生を対象に出前授業をした後、 アンケートをいただいた。
百人中五人の生徒さんが 「もし、 自分の子どもが障がい児として生まれてきても、 大事に育てようと思った」 というような感想を書いてくれた。 これにはこちらが驚いたし、 嬉しかった。
障がい児はこれからも一定の割合で生まれてくる。 そのとき、 リアンの会の親子の笑顔を思い出してほしい。
みんな、 絶望の淵からたくさんの涙と共に頑張ってきた親子。 でも、 仲間がいるから大丈夫、 独りで悩まなくていいんだよ。
未来のお母さん、 お父さんに、 そんなメッセージを発信しながら、 これからもリアンの会は活動を続けていく。
どうか皆さん、 これからもこの子たちを見守っていてください。
出前授業の様子や感想はブログ 「リアンの会」 で検索してください。
(重度障がい児 (者) リアンの会)